2010-12-31

100 Up in the Air

"Up in the Air", 2009
100本目のブログはいたって普通に、面白かった映画をご紹介します
人間ドラマは「いろいろあって成長して、人生がすこし(時に大きく)変わる人間」を描くのが常です。そうでない作品も多いのですが、中でもこの映画は「いろいろあっても結局あまり変わらない」という結末でありながら、「変わらないこと」の停滞感よりも爽快感が残るという不思議な作品です。
主人公は企業に雇われて全国を飛び回る専門の「解雇宣告人」。仕事へのプロ意識は普通にあるが、生きがいは出張で途方もないマイルをためて「名誉ある乗客」になること。家族には興味がなく、家族を持つことは想像もしない。その彼が新人女性社員の研修を押し付けられ、彼女に現場の仕事を教えるための旅を続ける一方、出張で出会った女性とは気楽な付き合いを楽しんでいます。
仕事のベテランとして、一家の兄として、つかの間の恋人として、必要最低限の人間づき合いしかない彼でもいくつかの立場があります。彼が気づかないうちに、それぞれの役割は次第にはっきりと真剣味を帯びてきて、あるときついに彼を立ち止まらせ、人生を変える方向へと走らせます。
普通のハリウッド映画ならここで人生は変わるでしょう(それがハリウッド映画のいいところです)。ところがこの映画、確かに主人公は自身にも周りの人間にもいくつか変化を起こすのですが、結局は人生は変わらず、今までと同じ場所に立つ自分を確認して終わります。マイルをためるという生きがいも何だか(どさくさのうちに)達成してしまいます。
もちろん彼の心境にいくばくかの変化は訪れたでしょう。マイルをため終わっても、これまでと同じ生活を満喫できると判っても、さほど嬉しそうではありません。さりとて、この映画は「現実の人生はハリウッド映画のような奇跡はおきないのだ」と冷めた目で語られているわけではありません。
主人公が自分の殻を破ったのか、人生を変えたのかどうか見た目ではわかりません。変わらなくても構わない、人間性に欠けるかもしれないが、そういう価値観も良い、そういう捉え方もできます。少数派のタイプの人間に対する温かさをも感じられます。
逆に、たとえそう見えなくても、以前と同じことをしていても、人生が変わる瞬間が描かれなくても、彼は本当は大きく変わったのかもしれません。それはそれで素晴らしいことです。"l'essentiel est invisible pour les yeux" 「大切なものは、目に見えない」というサン=テグジュペリの言葉を思い出します。
映画の主人公は人生の大半を空の上で過ごし、空港を家と呼びます。サン=テグジュペリはもちろん著名な飛行士でした。空を眺めて生きる人々には、なにか特別な価値観があるような気がします。
Thanks for your support for this blog and A Happy New Year!

No comments:

Post a Comment