1つの曲が誰かの人生を変えることはなくても、ある世代の、少なくともある期間の人生には影響を与えることはあり得るはずで、Underworldの"Born Slippy Nuxx"はその一つです。何とも表現できない唯一無二の音の世界は、その冒頭から、“ある世代”に属する人ならすぐに分かるフィーリングを、1990年代半ばの記憶と空気とともに思い出すことでしょう。大げさな言いかたですが、これは本当にそういう存在の曲です。
漂うようなボーカルに、たたみかけるドライな疾走感。まさに全力で駆けているときの鼓動のように活き活きとした、それでいてクールで正確なビートに、何か特別な予感を思わせる美しい音調が重なり、今でも色褪せないテクノの傑作のひとつです。
この曲は1996年の映画"Trainspotting"に使用された曲として有名です。皆がこのきわどくエッジの利いた映画に憧れはしなかったとしても、この曲が"ある世代"に呼び覚ます記憶は確かにこの時代の空気と結びついていて、曲を聴きながら街を歩けば周りは映画のシーンのように見えるのです。
1990年代、80年代、70年代、60年代には必ずそうした時代を代表する曲がありました。不思議なことに2000年代、2010年代にはそんな音楽が生まれているようには思えません。おそらくこれは我々が音楽が人生の一部を占めていた世代に属しているのかどうかということであって、ミュージシャンの才能の問題でもなく、時代の善し悪しの問題でもないのです。
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