2014-12-07

495 Haywire

Steven Soderberghが監督、総合格闘家のGena Caranoが主演の"Haywire"を観ました。第一級のスパイ・アクション映画という柄ではありませんが、むしろその分野の映画には珍しく、控えめで硬派で、タイトな雰囲気が異彩を放っています。この映画の最大の魅力は本物の格闘家が本物のファイトとアクションを見せつけるという点にあるのですが、その凄みを等身大の人間のスケールで追体験できる感覚が斬新です。本物の動きはシーンの振り付けという域を遥かに超え、窮地に陥っても素早く鮮やかに切り返す(という演出効果に過ぎないとしても)姿には、生身の痛々しさと同時に爽快感まで漂います。正確で鋭い格闘にも、街路を一散に走り、屋根から屋根に飛び移り、壁を滑り降る姿にも、作り物でない筋肉の重さを感じるのです。スチール写真ひとつを見ても、その佇まいに緊張と安定のバランスが取れた身体能力の強さが窺えるような気にさせられます。

女優男優を問わず、俳優は宇宙飛行士やシェフや弁護士や科学者から、王様や歌手や妖精やボクサーを演じます。その裏には相当な深さの肉体的・精神的な役作りがあり、自分ではない他の人格への変化を現実にする演技力があります。それでもなお、この映画のようにスタントもCGも編集も一切不要な本物の「人間の動き」の迫力を見せつけられると、まるで野生動物のドキュメンタリー映画のように、観て圧倒されるだけで十分に満足できる映画となるのです。

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