2015-02-25

514 Song for Marion

名優Terence StampとVanessa Redgraveが老夫婦を演じた"Song for Marion"は、老いと死、音楽と家族をテーマにしたシンプルなコメディであり、二人の名演と音楽の力で知らず知らず深い感動を憶える秀作です。主人公は老いた気難しい頑固者で、表情は苦々しいか、(せいぜい機嫌が良くても)素っ気ないかのどちらか。しかし彼の余命わずかな妻は対照的に朗らかでユーモアに溢れ、友人を惹き付けずにはいられないチャーミングな人物で、ローカルの合唱団での練習に余念がない。彼は妻の趣味に呆れ、苦言を呈しつつも深い愛情を寄せ、甲斐甲斐しく妻を世話し最期を看取ります。その過程には一人息子とのかみ合わない関係、妻が夫に歌いかける"True Colors"の静かな感動など、ここまでだけでも見事に一篇のドラマですが、後半のコンテスト出場(映画的には少々ありきたりですが、何しろ老人達が、ややもすれば滑稽になるだけのファンキーなロックやラップを練習するというユニークさは抜きん出ています)も見応えがあります。そのコミカルな状況の中で彼が何を語り、何を思い、どう行動するのか、映画はひたすら孤独な老人のしかめ面を捉えながら、クライマックスでその表情を解き放ち、観客に幸せと切なさを同時にもたらします。

いわゆる「泣ける」映画という売り文句には感心しませんが、映画というフィクションのドラマの中の主人公の心境や人間性が自分のリアルな人生にどこかで共鳴するからこそ、観客は泣いたり笑ったりできるのですし、良く作られたドラマはおそらく必ずリアリティに根ざしているのです。

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