2009年のフランス映画「Le Concert」はコメディなのかドラマなのか、にわかには評価できない面白い作品です。筋立てはロシアで暮らすかつてのマエストロ(指揮者)が、ひょんなことから仲間を集めてボリショイ交響楽団になりすまし、パリの劇場で公演を企むというもの。と聞くといかにも「あの手この手のだまし合い」や「なぜかうまくいかない珍道中」といったドタバタ系を期待させるのですが、話はそう単純ではなく、笑いはふんだんに盛り込まれながらも、それはどれもどこかナンセンスでオフビートな笑い。何しろいきなり銃撃戦に巻き込まれたり、パスポートを偽造してみたり、首尾よくパリに着いたとたんに飲んだくれて行方不明になったり、街角でバイトをしてみたり。こういう映画では「ダメな楽団員がいろいろな試練を経てうまくなる」というストーリーが定説ですが、この映画に限っては「(推定)超一流の楽団員が一度も練習もせず、試練もないまま最後のぎりぎりまでダメなさまを見せ続けるが、あることを引き金に最高の演奏を始める」というもの。
その理由は、前半のどうしようもない脱力的な笑いとは対照的に、歴史的背景に基づいた非常にシリアスで重いドラマにつながります。映画のハイライトで20分余りも演奏されるヴァイオリン協奏曲の素晴らしいメロディと引力が、笑いの要素を打ち消すことなく全ての伏線を飲み込み、調和させ、「いくらなんでもそんな急にうまくできるわけがないじゃないか!」という疑問さえもうどうでもよくなってしまう、そんな幸福な気分をもたらします。一方、音楽に生涯を注ぐ人間の極限の精神力とはどんなものなのか、その鋭い描き方も強烈な印象を残します。
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