発端は、予算の少ないチームに許される資金の範囲内で選手の最適化を図るもので、それが必ずしも最強のチーム、勝利の公式を作るという訳ではないのが現実であり、この映画も現実感から一歩も踏み外すことなく、米メジャーリーグのチーム経営の世界を垣間見せてくれます。
何の説明もなくストーリーが展開するところもリアリティを高めているのでしょう。GMとは何か、どのような権限と責任を持つのか、監督と何が違うのか、選手や守備をどう決めているのか、観客が皆そうした知識を備えているかどうかに関わらず、不自然な説明は省いて僅かな台詞と展開で描き出しています。
とりわけ強烈なのは、電話一本でトレードされ、「OK」の一言で全米のチームを転々とするメジャーリーガーのドライな現実。選手の獲得と放出がまるでポートフォリオ運用のように行われ、優秀な選手が投資商品のように取引される姿は驚きです。
ベースボールの世界を知るだけでも興味深いのですが、この映画の素晴らしさは純粋に映画としての魅力に満ちている点です。目を凝らす、眉をひそめる、瞬きをする。手を差し出す、指を差す、机を叩く、ガムを噛む、いつでもどこでも足をデスクに投げ出す、絶え間なく手の仕草を見せる、あるいは、緊張してテレビ画面に見入るときの呼吸、不満そうに歩み去る背中、そうした種々様々なさりげない動作と演技がこれほど雄弁な映画はあまり見たことがありません。
主人公は頻繁に車で移動します。ニュース番組を聴きながら、試合の実況中継を聴きながら、家族と電話しながら、あるいは沈黙したまま、その数々のドライブ中の横顔が(時には輪郭と視線のみで)焦燥や迷いを表し、一方で激高して椅子を投げつけ、電話を投げつけ、物を壊すといった荒っぽい行動がストレートな怒りを示します。
淡々として抑えた映像、ややくすんだ色合いの中、蛍光灯で照らされ薄暗く殺風景なトレーニングルームや球場の通路や控え室は現実そのものではないかと思わせます。徹底してトーンを抑えているにも関わらず何故か冴えた映像です。台詞は抑えながら、演技と映像がきわめて効果的に雄弁に機能しているすぐれた作品です。
No comments:
Post a Comment