531 Birdman or (The Unexpected Virtue of Ignorance)

"The Unexpected Virtue of Ignorance"（無知がもたらす予期せぬ力）という意味深な副題の付けられた話題の作品”Birdman”には、その結末はハッピーエンドなのか否か議論せざるを得なくなるような、不思議な、純粋に芸術的な力があります。解釈は様々あるのでしょうが、殊に面白く感じたのは俳優の人生、俳優の世界というもの。大作映画で荒唐無稽なスーパーヒーローを演じるにせよ、舞台で高尚な文芸作品を演じるにせよ、主役でも脇役でも彼らは皆自分ではない別の、あるいは架空の人間をひととき演じることを仕事とし、多くの優れた俳優・女優達はその仕事に人生を捧げているのでしょう。「仕事」が普通の人にとってもいかに多くの時間を費やし、その人の価値観や人間性を築く上でいかに重要な役割を果たしているかを思えば、演じることを仕事としている彼らは、彼ら自身のリアルな人生においても「演じること」から逃れられない、あるいは演じる世界と自分の人生が一体となってもおかしくないのではないか？という思いに駆られました。一篇の映画を観て映画そのものを離れてこのような感想を持つことはあまりありません。全編にビートを刻むドライかつ不穏なドラム音も印象に残り、きわめてユニークな作品でした。