2012-06-10

239 Descendants


訪れたことがないのにそこがあまりにも有名なため固有のイメージを持ってしまった街や国というのがあります。ハワイはそのひとつです。ビーチと海、火山、レイ、日光と自然、ヤシの木、アロハのハワイ。単純すぎるイメージです。
G・クルーニーの新作「Descendants」はハワイに暮らす普通の人々の家族の問題を描き、ハワイの絵葉書的イメージを静かに穏やかに覆す趣があります。煌びやかに輝く海ではなく、曇り空の湿っぽい住宅街と、アメリカのどこのティーンともさほど変わらないうんざりするような子供たちと、アメリカのどこの都市とも全く変わらない平凡な病院を行き来しながら、主人公は悲しみに暮れる暇もなく、右往左往しながら、しかしいつの間にか着実に人生を建て直していきます。
洗練された大都市でクールに生きるのとは違い、大勢の親族や知人に囲まれて島で暮らす、それがたとえハワイのような自由で開放的な楽園であっても、その小さな世界に時に息が詰まるような思いをせざるを得ない苦悩は言葉にしなくても伝わってきます。
しかしやはり、ハワイには宝があるようです。怒りも、悲しみも、苛立ちも、悠然とした景色の中ではどこか穏やかで静かなのです。大都市を舞台に描かれる賑々しいエキセントリックなドラマはありません。そして主人公の心の変化と歩調を合わせるように、映画は徐々に素朴で美しいハワイの自然を映し出していきます。ラストシーンでは、それまでで最も美しく、澄み切った透明な海の上で、最も静かで穏やかな「終わり」が告げられます。冒頭からこのストーリーをたどり、主人公と一緒に小さな冒険と旅を繰り広げてみれば、ハワイはそれまでのイメージとは全く異なる清々しい磁力を放つ島になっていました。

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