先週封切りとなった「Man on a Ledge」はサスペンス&アクションの良作と言えるでしょう。話の中心はNYの高層ビルの窓のひさしに立ちつくし、飛び降りを仄めかす男。その行動の本意と、隣のビルで起こりつつある計画が緊張感を孕んで徐々に明らかになる展開が見事です。ストーリー自体は荒唐無稽なのに、要所要所に強烈なリアリティのあるエンターテインメントです。例えば主人公が、彼を説得にかかる刑事との間で一本の煙草を分け合うシーン。ビルに侵入し、一刻の猶予もない作戦の中でついつい無駄口をたたく共犯者たち。窓辺の男を見上げてヤジを飛ばしたり歓声を上げて見守る群衆。NYの刑事たちも最初はまったく男の身元も分からず、それが時間とともにゆっくりと真実が現れてくるのも説得力があります。冒頭、脱獄シーンの比較的派手なカーチェイスもありがちな超人的テクニックは一切なく、一体どう逃げ切るのか観客がハラハラできるつくりです。
映画全体の落ち着いた色のトーンや、所謂ハリウッドの大スターが出ていない為にどちらかといえば終始地味な印象さえあり、また「説明なしにどんどん進む」展開が、少し昔の映画に近い感覚です。ストーリーにも登場人物にもほとんど余計な説明を加えず、観客は否応なしに謎に引き込まれます。また観客が主人公の男に次第に感情移入していくのと、男が交渉人の刑事の信頼を勝ち得ていく過程がうまく重なっています。高層ビルのひさしの上で動けない男と、隣のビルの密室と、その周辺の刑事たちと、場面も人物も非常に限定的なために、まるで「潜水艦もの」のようなタイトな緊迫感も得られています。野次馬よろしく集まっていた群衆が知らず知らず彼の行動を助け、さらにラストで俄然意味を持つのも(やや強引ですが)新鮮な驚きでした。
地味でリアルなシーンを重ねつつ、緊張感たっぷりに面白く見せてしまえるのはドキュメンタリー出身の監督の成せる技でしょう。見て損はない一本です。
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