305 Salmon Fishing in the Yemen
「砂漠で鮭を釣る」というより「砂漠に鮭を泳がせる」のですが、突飛なテーマにふさわしくこの映画は一風変わった磁力をもっています。砂漠に鮭をもたらす大プロジェクトを担う水産学者と投資コンサルタント、皮肉いっぱいの笑いとテンションでプロジェクトを盛り上げる英国政府の広報官、その騒動の真ん中で泰然自若と釣りを称え、砂漠に緑を夢想するイエメンの大富豪。投入される巨額の資金の流れや鮭が砂漠で生きるための科学的な裏付けは最小限に控えながらも、何となくそれも本当らしく見えてくるリアリティがあります。景色もスコットランドの美しい山河から、慌ただしいロンドンのビジネス街、そして一変して広大な砂漠のキャンプへと軽妙に展開し、スケールの大きさには思わず引き込まれます。ビジョンのあるしかし奇想天外なる信念と、政治とパブリシティの可笑しさが絶妙なかけあいを見せ、その中で真摯に仕事をする善き人々と、それほど真摯でもないが巧い仕事をする人々が(鮭よりも)活き活きと力に溢れ、水面に広がる波紋のように多面的な印象を残します。まるでおとぎ話なのに、気の利いたリズミカルな台詞のおかげかこうした人間のリアリティが際立っています。おとぎ話が地に足をつけ、日常の世界がおとぎ話になる、こんな映画を観ていると、「人生はおとぎ話のようであってはならない」などということはない、という気持ちになります。
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