毎日、椅子に座らない日はありません。人は一生の間、幾つもの椅子に数えきれないくらい腰掛けます。食卓で、電車で、野球場で、診察室で、街のベンチで、ソファで、オフィスで、家のベッドで。椅子のデザインは人間にもっとも近い家具のデザインであり、ありとあらゆる素材を使って絶え間なく改良され、またその一方で永遠不滅のデザインチェアというものも少なからず存在します。
さて、椅子はそれだけ身近で至る所にあるのですが、座り心地よさそうに、気持ち良く背筋を伸ばして座っている人、見ているだけで思わず一緒に座ってみたくなるような人、そんな光景にはめったにお目にかかれません。毎日の生活の中で普通は椅子など何とも思わず、思う暇もないでしょうし、もし上質な椅子に座っていたとしてもそのクオリティにいちいち驚きや感動を覚える人は稀でしょう。
実はそんな光景はときどき道路で目にすることがあります。バイクの後部座席に座った人が、そのほんの少しの背もたれにゆったりと腰を落ち着け風をきって悠々と交差点を横切っていくとき、その場所はこの上なく座り心地のよさそうな椅子に見えるのです。
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