2015-04-18
527 Dior and I
"Dior and I"はクリスチャン・ディオールのデザイナーに就任したラフ・シモンズが最初のオートクチュールコレクションを完成させるまでの8週間のドキュメンタリーです。舞台はほぼ全編ディオールのアトリエ内、登場人物はデザイナーと職人たち。それにも関わらずハイファッションに興味があろうとなかろうと人を惹き付けずにはおかない強い引力を感じる傑作です。老舗メゾンのオートクチュールといえばファッションの最高峰ですが、それが造られる過程を描くこの映画には「美しさ」や「煌びやかさ」や「高級さ」は最後のショーが開始されるまで殆どどこにも見えません。その代わり画面に映るのは、繊細で温厚そうな人柄がデザイン作業が始まるやいなや、まるで苦悶しているかのような鬼気迫る表情を崩さないデザイナーと、彼を支える誇り高く気丈な職人たち、そして独自の価値観でハイブランドビジネスを動かす関係者たちの妥協なき戦いの日々です。クリエイティブであることとはかくも厳しく徹底した努力と自分自身の限界との戦いを意味するのです。しかし彼らも普通の人間であり、弱さもあればグチもこぼし、ユーモアも皮肉も軽口も必要です。全編にひきしまった緊張感を湛えながらもその辺りも非常にうまく描かれています。こうして出来上がった服をモデルが纏ってショーが始まったとき、その美しさと完成度のためにすべての過程が存在したことを思い、改めて、オートクチュールの世界の服の次元を超えた美しさを目の当たりにするのです。ディオールの顧客であるハリウッド女優から著名デザイナーまで数多くのセレブリティがショーを見守りますが、普段はどこに出ても主役となるであろう女優達が子供のようにこれらの服に目を輝かせ、このときばかりは作品の圧倒的な美の前に彼女達の存在も霞むほどでした。
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