539 Cars

Pixar映画の中で一、二を争う人気作というわけではなさそうで、ずっと見逃していたCarsですが、欠点がほとんど見当たらないといってもいい実に良質な映画です。ストックカーレースのレーシングカーが主人公ですが、映画の本質はレースシーンのエキサイトと迫力だけではなく、むしろ地図から忘れられたアメリカの片田舎の街の住人（車）たちの人間（車）模様と、老練で頑固者のレーシングカーと主人公との師弟関係に似たドラマにあります。冒頭の華やかなレースから一転して舞台となる田舎町の雰囲気に合わせて、全編がのどかでコミカルな雰囲気ですが、その裏にあるドラマは実写で人間が演じてもおかしくないような重みと説得力を感じさせます。Pixarならではのクオリティの高いCGアニメーションは、レースシーンでは圧倒的なスピード感と重量感、田舎の街では砂埃や夜の静けさ、広大な自然の中のドライブ、楽しげなネオンサインが映り込む滑らかな車体の表現など、もちろんどれも際立っています。これら技巧を尽くした映像の美しさがフォーカスされがちな映画かもしれませんが、力強いストーリーテリングの魅力も決して見逃せません。