今年初めにアカデミー賞を受賞した「The King's Speech(英国王のスピーチ)」がとても面白かったので、ご紹介します。そういえば、昨年末はやはりその前のアカデミーで話題になった「Up in the Air」について書きました。近頃は映画を観るのも1年遅れですが、SNSや頻々としたメールのやりとりに時間を割いているためだとしたら、果たして世界は広がっているのかそうでないのかとふと思います。
史実に基づく英国王の話、内気な王が勇気を持って障害を克服する話といえばある種「型にはまった」映画を想像しそうですが、この作品は品良く軽妙にその型を破って楽しませてくれます。それも、王の苦痛と苦悩の深さを描くことに決して手を抜かずに。ほとんどの登場人物が王族と政府要人で占められているのに、大仰な雰囲気はいっさいなく、それでいて威厳を漂わせつつ、溜め息もつけば悪態もつく。なるほど王族の身分というのは気の休まる暇もなく困難な仕事に一生涯を打ち込むことのようです。
吃音を克服するジョージ6世を演じるコリン・ファースは、いかにも名優然としていないのに、息をするように自然に王の人物像を作り出しています。王妃エリザベスを演じるヘレナ・ボナム=カーターは優雅で温かい王の妻を、他の誰にもできないのではと思わせる完璧さで体現しています。王を支え友人となる言語聴覚士のライオネルは王でさえプライドを解きたくなるような快活で風変わりな紳士で、ジェフリー・ラッシュが独特な持ち味を遺憾なく発揮しています。
エレガントな衣装や、背景となる英国王室の数々の描写のアート・ディレクションも秀逸で、同じ空間の中で繰り返されるシーンを飽きさせません。
緻密かつ上質に作られ、魅せる映画である一方で、舞台劇のように脚本と台詞の妙がシンプルに際立っています。ここには歴史ものの重厚さではなく、手近な小説を読むような親しみやすさがあります。
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