"Notting Hill"や"Love Actually"などのヒットで知られるRichard Curtis監督の引退作、"About Time"は味わい深く、温かく、洒落の効いた作品です。映画を撮るのは最後と決めた物語であるからなのか、これまでの作品のように練られた台詞や音楽やナンセンスなギャグが効いたコメディの使い方の巧みさもさることながら、映画としての洗練度よりもよりパーソナルな感情に深く切り込み訴えかける力を感じました。
日常のうっかりトラブルやちょっとしたアクシデントを何度でもやり直せてしまうという便利なタイムトラベル能力を持つ主人公。歴史を変えるような力はなく、タイムトラベルにつきもののパラレルワールドの困難もなく、その能力に課せられた条件はよくよく考えると辻褄が合わなかったり、同じ力を持つ父親との時間の概念を超えた対話にもいささか煙に巻かれてしまう感もあるのですが、それもこれも含めて一つの寓話として大いに楽しめる作品です。誰もが感じている仕事や雑事に追われる忙しい人生を、この映画を見た後には少しゆったり構えて大海原を渡るひとつの道程のように見直すことができるのですが、人生というやや哲学的なテーマを大げさに押し付けることもなく、タイムトラベルの非凡な設定を使いながらもそのシンプルな意図を淡々と伝えようとする意欲作と言えるでしょう。
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