588 The Rewrite
「言葉」が持つ力については議論を俟たないでしょう。ヴィジュアルな情報発信や、視覚でも言葉でもない体感をセンサーリングして伝えるコミュニケーションテクノロジーの進展の中においても、新聞を読み、雑誌を読み、ニュースを聞き、メールを読み、SNSに記事を投稿し、議論し、説明し、共感し、そして頭の中で考えることに至るまで、毎日接する情報の殆どは言葉によるものです。映画"The Rewrite"の主人公は映画の脚本家であり、「言葉」を生み出し使いこなすプロフェッショナルの一人です。ハリウッドから干されかけて生活のために渋々郊外の大学で教職に就き、当初は無責任で気侭な日々を送ってみたものの、好奇心旺盛で個性的な生徒達のおかげで次第に教えることに開眼し…というプロットはストレートで、今時珍しいくらいシンプルです。ストーリーが穏やかな故、主人公はほぼすべてのシーン、すべての台詞で脚本家の本領を発揮するかのように捻りの効いた、ウィットと皮肉に満ちていながら、真実を突く言葉を何の気なしに投げかけます。まるでF1レーサーがレーシングカーを乗りこなすように、脚本家は言葉を使いこなすプロであると実感させられます。この映画はほとんどのシーンが脚本家と脚本家志望の生徒達との間、もしくは文学や言語学を担う同じく「言葉」のプロである教授達との間での会話によって成り立っています。「言葉」とそれが持つ力を熟知し存分に吟味し、シェフが食材を知り尽くし使いこなすように、写真家が最もすぐれたドラマの瞬間を待ち受けてその場面を切り取るように、「言葉」を使いこなすことの楽しみを疑似体験できるような映画です。
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