Jane Austenの6作品のうち5作を読み終え(何度も読み返し)ました。多くの文芸論が示す通り、英国のカントリー・ソサエティに暮らす若い女性が幸せな結婚を見出すまでのお語、という箱庭のような小さな世界のいったいどこに、読者が夢中になって頁を繰ってしまうような魅力があるのか、それ自体興味深い謎ではあるものの、ひとつにはやはり徹底した理知的な文章の魅力が挙げられるでしょう。小説のテーマこそ恋愛や若者のドタバタを取り上げながら、作者の視線と筆力は驚くほど徹底して冷静で理性的、練られた言葉は鋭くロジカルで、感情や感傷に委ねて書いたような形跡はどこにも見当たりません。感情を分析する文章は繊細でありながら呆れるほどドライで科学的といってもよいくらいで、恋愛小説というより恋愛の博物誌、哲学、あるいはジャーナルとでも表現した方が相応しいようです。
これもよく知られている通り主人公には例外なく姉妹がおり、作中の姉や妹との会話がドラマの軸になりますが、初期のSense and Sensibility、Pride and Prejudiceの2作品はその傾向が強く、後年のEmmaやPersuasionでは姉妹関係はそれほど重要なファクターではなくなってきます。作者自身の姉との親しい関係が、作中の人物達の絆や葛藤に反映されているそうです。一方、主人公の兄弟関係はあまり多く描かれません。これは、兄弟が居ないために家の財産を継承できない姉妹、という経済的困窮の背景を描く上で設定上避けられないということの他にも、限られた社交世界の中で主人公の伴侶となる紳士の人物像を出来るだけ引き立てるためにも、兄や弟という他の男性的要素を排したということもあるかもしれません(もっとも主人公以外の人物設定には兄弟やら従兄弟が常に配されていますが)。
その例外はMansfield Parkの主人公Fannyであり、彼女には海軍に勤務する兄の他にも大勢の弟妹がおり、兄は登場は少ないながら主人公のソウルメイトにも似たごく親しい、気の置けない重要な存在として描かれているのは異例といってよいでしょう。ただし彼女の場合は子沢山の実家を幼い頃に離れて伯父の家人となり、これまた大勢の従兄弟姉妹と育ってきたという複雑な家庭環境であり、またその点で、家族構成が割合にシンプルな他の作品と比べてより小説的な、技巧的な物語の背景を生み出しているように思えます。
しかし、やはりAustenの作品には姉妹・兄弟の有無といった表面的なカテゴライズはあまり意味をなさないのであって、似たようでいて微妙に異なる一作品一作品の背景と構造を、作者が注意深く凝らした舞台設計として純粋に楽しむのが一番良いのかもしれません。
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