軽妙なコメディ、というジャンルがありますが、ときにコメディの真価は過小評価されているのではないかと思います。Jean Renoが三ツ星レストランのシェフを演じた映画"Comme Un Chef"はまさに軽妙なコメディで、軽快でテンポよく、全編に渡りコミカルで、くだらないギャグも交えつつ、最後は敵の鼻を明かし、恋が実り、愉快な大団円に落ち着くあたり、おそらく作った方も典型的なコメディ以上の深みは追求していないのではないか、と書いたとしても文句は出ないでしょう。
そうだとしても、軽妙で肩の力が抜けているのに、台詞を言うたびに笑いを取る演技とは実は相当に難しいものではないでしょうか。ある人物のあるシチュエーションが笑えるとしたら、その前提としてその人物のリアリティがしっくりくるものでなければ、まず笑う準備もできません。高級レストランのシェフのドタバタが可笑しいのは、その雰囲気や立ち居振る舞いや料理の腕や存在感や台詞回しがちゃんとシェフになりきっているからで、そうでなければ笑いは成り立ちません。それもただ役柄のリアリティを追求するだけでは笑えないので、そうした職業にありがちな特徴をわずかに誇張したり風刺したりするからこそ面白く、加えてコメディを見に来る観客はそもそも笑ってやろうと待ち構えて観ている訳ですから、それに応えるには相当可笑しくなければならない。その上で、俳優が観客が感情移入できるような魅力を備えているから、コメディ映画が観客に幸せな時間を提供できるというものです。
この映画は題材からして料理の魅力に溢れている、と誉めても良いのですが、むしろ全編が活き活きとした台詞の掛け合いに満ちていて、さほど爆笑を誘うというわけでもないけれど、コメディの本質はこうしたシンプルで面白おかしい言葉の妙にこそあることを思い出させてくれます。
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